『揃わない前提の授業とクラス』を読んで。

社会科・探究学習

『揃わない前提の授業とクラス』(授業づくりネットワークNo.47)を読んだ。いろいろな方が、SNS等で発信しているように、いろいろな角度から読み応えがあり、考えさせられる。僕にとって、この本は、すぐには解決しないモヤモヤをお土産に置いていってくれて、自分の実践を振り返るための鏡のような一冊となっている。そこで、この本を読みながら、社会科の授業について考えたことを書いておきたい。

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「多様性という観点から考えたら、私が今言っていることと、やっていることってどうなんだろう」

巻頭の座談会で、青山新吾先生が、以下のように述べている部分がある。

超難問ですが、現在考えていることとして、多様性や違いについての感度を少しでも上げていきながら、それを大切にする取り組みをどんなに小さなことでもいいから、確実に増やしていきましょうということだと思います。でも、それをやろうとしたら、結構自分に突きつけられるといいますか、「これって、多様性という観点から考えたら、私が今言っていることや、やっていることってどうなんだろう」とか、(略)

『揃わない前提の授業とクラス』p.16

突然、昨年の12月から3月までの中2の地理の授業を担当することになり、「私が今言っていることと、やっていることってどうなんだろう」を突きつけられた。与えられたミッションは、「とにかく地理のカリキュラムを全て終えてほしい」ということ。授業進度はかなり遅れていたので、いきなり授業のやり方を大きくかえたら、残り3ヶ月では、子供たちにも負担が多い。しかも、中2までに全て終えるというのは大人の都合。かなりハイペースで授業をしなければならない申し訳なさを感じていた。きっと、苦しむ生徒もたくさん生まれてしまうだろう。特別支援学級とは違う校舎にいる中学校2年生に、休み時間に話しかけて「どんな授業だった?」をインタビューし、なんとなくのイメージができたところで、授業を始めた。

基本的な授業の流れは、次のような流れで固定した。

教師からの問い→社会科の技のミニレッスン→本日のミニレッスン→個人ワーク・グループワーク→コミュニケーションカード

グループワークの時間は、何かこっちが考えて欲しいお題についてやりとりすることをしたり、授業の中でわかんないことなどを、どんどん周りに気軽に聞く時間として設定していた。

社会的な見方や考え方を単元ごとに意識して、手渡していく

授業の最後は、「大福帳」(僕は、コミュニケーションカードと呼んでいる)で生徒の声を聞いて、調整することを続けた。多様性や違いについての感度を高めて授業をつくるためには、コミュニケーションをとる必要があると僕は考えている。

※大福帳の実践については、向後千春先生の実践を参考にしている。

「前の先生みたいに、単元の最後にテスト対策の穴あきのまとめのプリントを作ってください」「どこがテストに出るのかを教えてください」「テスト前のワークの提出は、今まで通りですか?」「テストに役立つ社会の勉強の方法を教えてください」「どんなテスト問題ですか」というような、テストに関連する記述が初期は多くて、その声を受けて授業を調整したり、調整しきれなかったこともあった。例えば、「穴あきまとめプリント」は、作業のようになるのが嫌いで、作らなかった。でも、それって「多様性という観点」からは、どうだったんだろう? それに変わるものとして、教科書会社の発行している指導書にある単元テストを「一人で解くのも、みんなで解くのも、タブレットで調べるのも自由」という形式で実施したり、教科書の単元末の課題で、仲間と協力して文章をつくる時間を取った。あとは、1時間使って、ワークの勉強の仕方を教えたり、おすすめのワークの勉強法をお互いに教え合うような時間を取った。(例えば、繁田和貴さんの「シメバツチェック法」を僕はよく教える)。

途中から、コミュニケーションカードは、テストについての質問はひと段落し、紙の上でのおしゃべり。授業についての質問や、生徒が持った問い、「好きなアニメはなんですか?」「好きな食べ物はなんですか?」「昨日、こんなニュースがあったけど、どう思いますか?」などが増え、そこにせっせと返信をした。特別支援学級の日課帳のコメントもあるので、放課後に毎日130人くらいにコメントを返していたかもしれない。

よくそんなに毎日コメントできるなぁと自分で思っていたけど、多様性や違いについてのアンテナを立て続けておきたいという、自己満足的なところもあったかもしれない。特別支援学級を担当するようになって、通常学級で「個々の背景」にどれぐらい対応しながら、授業をつくっていくことができるのだろうか?ということも考えたかったということもある。ただ、「穴あきまとめプリント」のことなど、個別に全て対応するには、厳しいなぁと感じることも多くあった。

「私たち教師は、個々の背景に焦点を当てるのではなく、学級全体の環境に『安心』を確保し揃え、そこが安全で自分らしくいられる場所であるという状態を揃えることが大切になると思うのです」

坂内智之先生が、以下のように述べているところがある。

(略)子どもたちの不安の一つ一つにフォーカスを当て、対応していくことは物理的に、とても難しいことです。そこで、私たち、教師は、個々の背景に焦点を当てるのではなく、学級全体の環境に「安心」を確保し揃え、そこが安全で自分らしくいられる場であるという状態を揃えることが大切になるのです。

『揃わない前提の授業とクラス』p.62

坂内先生が、大切にしている4つの安心(詳細は、本を参照)とは、アプローチは違うのかもしれないけど、僕は「コミュニケーションカード(大福帳)」や「グループワーク」などの時間の設定で、社会科の授業で「安心」を確保していこうとしていたのかもしれない。

特別支援学級は、それなりに人手があるけれども、それでも、個々の背景に焦点を当てて対応することはかなり厳しいと感じる。個に対応しようとすればするほど、学級の仲間が、手助けをしてくれる機会を奪っているかもしれないし、その生徒自身が成長する機会を奪ってしまっているのではないか?と感じることもある。どこまで、手をだすか?手をださないか?のさじ加減は、風越のときから、引き続き悩むところだ。漠然としているけど、集団へのアプローチと個へのアプローチのいい循環が起こるような環境をどう作っていくかということが大切そうだ。その大きなヒントが、坂内先生の記事にはあったように思う。

生徒たちにとって大事な学習環境の1つである「教師のあり方」を「多様性という観点から考えたら、私が今言っていることや、やっていることってどうなんだろう」を軸に日々振り返りつつ、安心をつくっていくような「対話の量・質」を、どう仕掛けていくことができるか、が今の勤務校での課題だろうか。

石川晋さんがp.18からの巻頭言で提案されているところにも関係するけれども、「揃える」ということを手放せば、きっと新しい可能性が生まれてくるんじゃないかなと、ワクワクする1冊だった。

そろそろ新年度の特別支援学級での社会科の授業がスタートする。ときどき、この本に立ち戻って振り返りながら、進んでいきたい。

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