PBLとSDGs①企画書についての実践と学び

社会科・探究学習

 (0)はじめに

3学期の1月末から2月末の最後の授業まで、PBL(プロジェクト・ベース・ラーニング)で、中学校3年生の社会科の授業を実践中です。

今までにも、いくつかプロジェクト型の授業をしてみたものの、生徒たちがどっぷりと学びに浸っているかと問われると、そうではない生徒が多かったというのが反省です。

そこで、まずは生徒たちの「問い」から始まる探究を丁寧に考えていこうと思い、手に取ったのは、上杉賢士・市川洋子(2005)『プロジェクト・ベース学習で育つ子どもたちー日米18人の学びの履歴』 でした。

プロジェクト・ベース学習で育つ子どもたち―日米18人の学びの履歴

プロジェクト・ベース学習で育つ子どもたち―日米18人の学びの履歴

 

 この書籍の、p.90-91にPBLを始めるための企画書が掲載されているので、そこを参考にしながら、私が教えているクラスで5時間ほどかけて、企画書を書いたり、面談をしたりしながら、考えたこと、気づいたことをまとめていきたいと思います。

(1)1時間目 私が中学校の3年間で学んだこと 1コマ目マッピング

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自分が今まで学んできたことから、どうやって持続可能な社会を作っていこうか?というような全体の単元の流れ。ただ、「君たちがこの3年間で学んだことって何だろう?」って質問しても、生徒たちの頭は「???」になることは間違い無いので、1時間使って、それをひたすらに書き出す時間を取りました。

①本時のながれ

・10分個人でマッピング

・10分グループ(2〜3人)もしくは一人を選んでもいいで話しながらマッピング

・5分個人でマッピング

・クラスの端から順に、他の人とかぶらないように、この3年間で自分が特に学んだなぁ、って思うことを言ってもらって、がそれを私が黒板にまとめていく。

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②授業者のふりかえり

それぞれのクラスの黒板を見返すと、なんだか、各教科で学んだことって、少ないなー、って思って切なかったけど、これが現状なんだろうな。圧倒的に、部活動や友人関係から学んだことが多い。でも、部活動や友人関係から学んだことも、SDGsと繋げて、面白い探究テーマも生まれそうで、次回が楽しみ!!

(2)2時間目 私が中学校の3年間で学んだこと 2コマ目プロジェクトテーマ考案

①本時の流れ

・みんなで作った黒板の写真を配布(PCで白黒反転させれば見やすい!)
・自分が学んだことを書いたマップも机の上に出す
・2つを見ながら特に自分が学んだこと、興味のあることに印をつける。
・それを使ってどう社会をよくしていくか、という話をする。
SDGsの本を配布して、SDGsTV動画を1つみることで、すでに自分たちは社会と繋がっているよね、ということを思ってもらう。

sdgs.tv

・企画書を配布して、こういうのを次から書くよ、という説明をする。

②授業者のふりかえり

●1時間目4組
「どのようなことを達成したらゴールか?」ということで、途方もないゴールを設定した人もいた。「1ケ月で、できるゴールだよー」って言った方がよかったね。

●2時間目5組
流れを変えてみた。
自分の学んだこと(興味のあること)×SDGsの17つのゴールのうち1つ、を考えてみよう!にした。というのも、どうにもテーマで唸っている子が1時間目に多かったから。このやり方は、いいものが出てきた。
KPOP×平和、中日ドラゴンズ・野球部×陸の豊かさなど。
中日ドラゴンズの選手が、どのようなボランティア活動をしているかを調べて、球団に問い合わせをして、中日としてのSDGsに対する取り組みをまとめ、課題などを明らかにしていきたい」って言っているのは面白かったなあ。とても、私じゃ思いつかないテーマで、ワクワクした。

●3時間目6組
「1ヶ月のゴール」の決め方で、困っている様子。
また、教科の枠を超えることにも困っている様子。
困っているというか、すごく考えの広がりが狭いということ。

アウトプットのやり方が、「紙でまとめる」ことに偏っている。
一度、どのようなアウトプットがあるか、ということも考える時間があってもいいかもしれない。教科の枠についても、社会科的な観点以外が出にくい。

「先生、僕睡眠について興味があるし、この3年間大切だなぁって思っているんですけど、これどSDGsって繋がらないし、社会っぽくないですよねー」って相談しにきた生徒がいた。

「睡眠×健康、でいいんじゃない?世界の睡眠の状況とか、寝方とか寝具とか調べても面白いかもねー。あとは、うつ伏せ、横向き、仰向け、どの寝方が一番体にいいのか、とか自分の体で試してみるような保健の授業みたいなプロジェクトも面白いかも!」

「え!そんなのでいいんですか?それなら、すごく面白いですねー。ちょっと考えてみます」

中学校3年間まで来ると、考えは凝り固まっているんだけど、ちょっと突っついたら、すぐに柔らかくなる脳みそを持っているなー、って思う。
自分のやりたいことをやりたいだけやるという学びを、ずっとやって行ったら、どうなるんだろう?マインドセット、って大事。いやー、久しぶりにワクワクする時間だった。

③ふりかえりのふりかえり

途方も無いゴールでもOK。生徒たちは、「砂漠を森にする」というようなゴールを企画書に書いてきたけれども、最初からそこを私は、「もう少し小さくしたら?」って言ってしまった。その言葉から生徒には、どんな影響を与えてしまったんだろう?「あなたは中学生だから小さな問題しかできないんだよ」っていうメッセージを伝えてしまっているかもしれない。マインドセットが大事と言いながら、凝り固まったマインドセットを、生徒に伝えてしまっていたので、失敗したなぁ。そこに達成するために、どのように1ヶ月近づいていくかということを考えることも探究だよなぁって思う。子どもだって、「これから自分が取り組む1ヶ月のプロジェクトは、大きなゴールを達成するための1歩なんだ!」って思った方が、モチベーションが上がると思う。子どもの主体性を引き出したいのに、逆のことをしてしまったなぁ。次の授業で修正をしていこう。

(3)3時間目 企画書づくり1コマ目 アウトプットミニレッスン

①本時の流れ

アウトプット(成果物)について、どういうことをしたらいいかわからないということが、うちのクラス(4組)のジャーナルに書いてあったので、急遽、アウトプットについてのミニレッスンを行うことにした。

<ミニレッスンの内容>
・黒板にマッピング形式で、みんなが発言したアウトプットのやり方をがまとめていく形式
・途中で2〜3分の近所との相談タイムを入れて10分程度

・黒板の右端には、「出口チケット」という付箋を貼った。授業の終わりに質問や相談などがあって、直接聞きにいくタイミングを失ってしまったりした人用に、付箋に書いて相談できるもの。(結局、使いにくそうなので、各班のテーブルに配布することになった)

・また、友人から共有していただいた成果物の動画や、小学校6年生の女の子が書いた絵本も共有した。

【脱線】坪田愛華さんの『地球の秘密」、正直、小学生が作成したもののレベルとは思えない。彼女の両親が編集した『愛華、光の中へ』を読んだ。この本は、彼女の生涯の学びのポートフォリオのようになっていて、たくさん文章を書いたり、たくさん本を読んだり、たくさん個人探究をしてきた足跡が残っていた。こういう学びに浸ったという経験があるから、こんなに素敵な絵本ができたんだなあ。)

地球の秘密―SECRET OF THE EARTH

地球の秘密―SECRET OF THE EARTH

 
愛華、光の中へ。―「地球の秘密」を描いた12歳の少女

愛華、光の中へ。―「地球の秘密」を描いた12歳の少女

 

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②授業者のふりかえり

●3時間目 5組
いわゆる一斉授業の座席形式のまま、ミニレッスンをしたがいまいちアイデアが出ない。完全に空間の設定をミスした。アウトプットに興味がある人は、黒板をみているし、そうでない人は、どんどん企画書を書き進めている。それでOKということにしたんだけれども、なんとかアイデアを集中して考えようという空気にはならなかった。

●4時間目 6組
まず、アイランド式に教室の座席をして、アウトプットに困っている人だけで、集まってもらった。12人。ゲーム大好き少年Hが、「なんだ、青空教室みたいだ!」と嬉しそう。他のみんなも黒板の前に集まると、なんだか嬉しそう。みんなで一緒に考えようという形になっているから、自然とアイデアが出そうな雰囲気。
身体性による学びのスイッチ、というのは、やはりある。(こういう言葉でいいかどうかは?)

このときのミニレッスンは、
前のクラスでやったものに追加して、
・今までみんながやってきたアウトプットはどんなものがあったー?から発散。
・こういうのに縛られなくて、もっと自由にやっていいよー。先生は、これで成績つけないからねー。6組は、非常に勉強ができるクラスで、学校の型から抜けにくそうな人が多いので、そういう話を追加してみた。

早速少年Hは「人生ゲーム!」「SDGsボードゲーム!」と言って、場を和ませ、
そこから、みんなの意見がどんどん出てきた。

「その目標は壮大過ぎない?」と昨日言った生徒たちは、ゴールを小さくすることはしなかった。ブレない。
自分たちのやりたいことって、ほんとに色々あるんだなー。
こんなに子供達は自分たちのやりたいことを話している時は楽しそうなんだなぁ。
入試の勉強ばかりやりたい子達かな、って思ったけど、
そうでもないようで、みていてこっちもワクワクしてきた。

(4)4時間目 企画書づくり2コマ目 面談

①本時の流れ

企画書作成している生徒たちの相談に乗る

②授業者のふりかえり
企画書の中の「実在の人物」の欄を記入するところで、かなり困っている人が多い。今回のプロジェクトの情報源として、必ず実在の人物を入れることを条件とした。
個人的には、少しチャレンジをしてほしいという気持ちがあるので、できれば身近な家族や友人を、「実在の人物」として欲しくはない。このプロジェクトを通じて、社会と繋がっていく力も、少しでも身に着けるというチャレンジをしてほしい。

ただ、身近な家族や友人でも、いいなぁと思うようなテーマもある。
例えば、日頃から気をつけている節約術、など。

悩むなぁ。

ただ、この「実在の人物」という項目が、なぜあるのか、ということをちゃんと話せばよかったかな、と今思えばある。上記のような思いでこの項目を書いているんだということを、子供達に思いを伝えるか、伝えないかで大きく変わってきたのかなぁって思う。そこは、今から話しても遅くないかな。

1時間で10人くらいの企画書を面談。
みんなのやりたいことを聞いている時間が、ものすごく楽しい。
企画書を書き終わった人から、PC室や図書室に自由に行って調べている。

ある生徒が、出口チケットを書いてきた。

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こういう、生徒のやりたいが、動いているのは嬉しい。
今まで、授業に全くやる気のなかった生徒が、動画作成をしたいということで、ものすごく生き生きしている。いい感じだ。

③ふりかえりのふりかえり

身近な人を選ぶ→楽をしようとしていると感じる→違う選択をさせて、チャレンジをさせようとする。

こんな思考になっている自分がいる。決して、生徒は楽をしたくて身近な人を選んでいるわけではないのに、そう思い込んでしまっていました。自由に自分がやりたいことができるのが、今回のPBLなのに、そこを知らず知らずのうちの制限してしまっていたなぁ。いかんなぁ。たぶん、そう考えてしまうのは、僕が「真正の学び」とは、社会につながることだ、という考え方にこだわってるから。そこを、どう柔軟にいけるかなぁ。身近な人も「社会」か。大切なのは、自分で必要な人に繋がることを選択するという経験かな。この部分は、次の授業でもう一度しっかり話しておこう。それに、家族だって友人だって、身近な人も社会の一員。身近な人の新たな一面を見ることができる可能性もあるよ。

そして、「真正の学び」とは何だろう?という問いにきちんと自分なりの考えを、持てていない・・・。「真正の学び」って何だろうか・・・。

(5)5時間目 企画書づくり3コマ目 面談続き

①本時の流れ

黒板に面談したい人は、名前を書いていく。そして、自分の順番がきたら呼ばれる。

面談は1人つき4分くらい。1時間に12人くらいできる感じ。

②授業者のふりかえり

まだ企画書のチェックを受けていない人は各クラスに15人程度。
だいたい一人に3〜4分の面談をしているけれども、なかなかの疲労感だった。
今日は3時間連続で合計40人近くと話していたら、クタクタになった。
企画書OKの人たちは、PC室や図書室で、調査の開始。

今日一番面白かったのは、4時間目の T 。母親の実家が福島県にあり、震災の被害を受けたということ。そして、実家の近くには海があり、おばあちゃんが漁業をしていたということ。震災でのマスコミの報道は、原発のことばかりで、漁業関係者がどのような苦労をして、今、どのように復興してきているのか、全然報道しないんだ、ということが不満のようだった。

「それは、マスコミに対する怒りということ?」と、聞いたら、
「いや、そういうことではなくて、ただ僕の祖母やその仲間が、どういうことに苦労していて、今、どういうことを頑張っているのかということをただ知ってもらいたいんです」ということだった。

彼は、他の社会科のプロジェクトの時は、「別にやりたいことないっす」ということを言っていて、ぼーっとしていることが多かった。今回は、全然目の色が違う。

企画書の「周りや社会に与える影響」という項目を考えるところが、本当に肝だと思う。
whyを考えるということ。なんのために、その学習をするのか、ということをじっくり考えている。
Tの今回の企画書からは「why」を強く感じた。
「自分の親戚の現状をみんなに知ってもらいたいから、このプロジェクトをする。そのために、電話でインタビューをする」と言っていた。

今まで、自立学習シートで、学びのコントローラーを子どもに渡せば、自分で学んでいくと思っていたけれども、僕なりの言い方をしたら、そのコントローラーには電池が入っていなかったのかもしれない。
why、なんのため、という目的は、学ぶための電池、エネルギーになる

そして、Tには、Tの生きてきた人生があって、彼の生きてきた人生からしか、出てこないプロジェクトだった。生徒たちとの企画書面接を通して、感じるのは、一人一人の企画に向き合っているという感覚よりも、一人一人の人生に向き合っているという感覚(もちろん、そういう時ばかりではないけれども)

教師として、「そんな探究があるんだなー!面白いなー!」っていう知的好奇心も、面談からくすぐられるとともに、「この子には、こんな思いや人生があったんだなぁ」って、知らないことばかりが出てきて、もっと一人一人の子を授業で見ていけばよかったなぁ、という後悔の念もある

中学校3年の最後の単元で、こういう取り組みができるきっかけをいただけたことは、本当にありがたいなぁ。

③ふりかえりのふりかえり

ここまで5時間。探究のスタートのためにこれだけ時間をかけたのは、はじめてだった。3年間一緒に過ごしてきた学年の子達だからこそ、学校内外での、それぞれの学校内外でのいろんな悩みや成長にも少しばかりは関わってきた。それでも、彼らが生きてきた文脈は知らないことばかりだったなぁ。その文脈を知っていれば、もっと彼らが持っている探究のタネを育てることもできたなぁって思った。

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